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東京地方裁判所 平成8年(特わ)1002号 判決 1996年8月05日

裁判所書記官

河上基也

本籍

三重県一志郡一志町大字八太七四〇番地

住居

東京都北区神谷二丁目三一番一八号

無職

トキ

昭和六年六月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官石垣陽介及び弁護人阿部信一郎各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処する。

右罰金が完納できないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都北区神谷二丁目三一番一八号(平成四年四月三日以前は、同区赤羽南二丁目四番一八-五〇二号赤羽ブラウンハイツ)に居住し、同都豊島区東池袋一丁目三六番三号池袋陽光ハイツ九〇三号室ほか二か所において、易号「高嶋聖佳」の名称で易占い業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成三年分の実際総所得金額が七一三一万一七円であった(別紙1 所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)にもかかわらず、平成四年三月一二日、東京都北区王子三丁目二二番一五号所在の所轄王子税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が三六四万三八二二円で、これに対する所得税額が二八万四三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第八九二号1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成三年分の正規の所得税額三〇九三万二〇〇〇円と右申告税額との差額三〇六四万七七〇〇円(別紙4 ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成四年分の実際総所得金額が七三七一万六五二一円であった(別紙2 所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)にもかかわらず、平成五年三月一一日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が五九万九八四八円で、納付すべき所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第八九二号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成四年分の正規の所得税額三二〇二万円(別紙4 ほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成五年分の実際総所得金額が五〇一五万三七七三円であった(別紙3 所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)にもかかわらず、平成六年三月七日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が一二五万七一〇二円で、納付すべき所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第八九二号5を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成五年分の正規の所得税額二〇〇一万円(別紙4 ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(註) 以下の甲、乙に続く数字は、当該証拠の証拠等関係カード(検察官請求分)甲、乙での番号を漢数字で表記したものである。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(三通。乙一ないし三)

一 昇の検察官に対する供述調書(甲一五)

一  遠藤廣子の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲一六)

一  大蔵事務官作成の現金調査書(甲一)、普通預金調査書(甲二)、未収金調査書(甲四)、貸付金調査書(甲五)、土地建物調査書(甲六)、事業主借調査書(甲八)、申告所得調査書(甲九)、社会保険料控除調査書(甲一一)、配偶者特別控除調査書(甲一二)、配偶者控除調査書(甲一三)及び扶養控除調査書(甲一四)

一  検察事務官作成の捜査報告書(四通。甲三、七、一七、二六)

一  王子税務署長作成の証拠品提出書(甲一八)

一  大蔵事務官作成の領置てん末書(甲一九)

判示第一の事実について

一  押収してある平成三年分の所得税の確定申告書(平成八年押第八九二号の1。甲二〇)及び平成三年分収支内訳書(同号の2。甲二一)

判示第二の事実について

一  押収してある平成四年分の所得税の確定申告書(平成八年押第八九二号の3。甲二二)及び平成四年分収支内訳書(同号の4。甲二三)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の医療費控除調査書(甲一〇)

一  押収してある平成五年分の所得税の確定申告書(平成八年押第八九二号の5。甲二四)及び平成五年分収支内訳書(同号の6。甲二五)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも同条二項を適用した上、各所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金については同法四八条二項により各罪所定の罰金を合算し、その刑期及び合算額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処し、右罰金を完納できないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、掲記のとおり易占い業を営んでいた被告人が、収入の一部を除外するなどの方法により所得を隠匿して、三年分にわたって、合計八二〇〇万円余の所得税をほ脱した事案である。ほ脱額は、右のとおり少なくなく、また、ほ脱率も、判示三年分のうち二年分はいずれも一〇〇パーセントに、通算でも九九・六パーセントに及ぶ高率なものである。さらに、被告人は、自己の取得した不動産の購入費用の出所を隠蔽するために、その不動産登記を自己の長男らとの共有名義にした上、同人の所得を仮装して確定申告をするなどの行為にも出ていることなどをも考えると、本件は悪質な事案と言わざるを得ない。被告人は、自己の老後や高齢の夫と居住する住宅取得のための資金を蓄えるために脱税をしていた旨供述するが、国の財政が国民の公平な税負担の上に成り立っていることを考えれば、いかなる理由にせよ不正な行為で納税義務を免れ蓄財を図ることなど到底許されるところではなく、酌量に値しない動機である。以上のとおりの諸事情を併せ考えれば、被告人の刑事責任には重いものがある。

しかしながら、被告人は、本件が発覚した後は事実を素直に認めて、反省の情を示し、その後本件に関する分を含めて修正申告して、本税、延滞税等を完納していること、被告人にはこれまで前科・前歴がないことなど被告人のために斟酌すべき事情もある。

そこで、これら本件の審理に現われた一切の事情を総合勘案して、被告人を主文のとおりの刑に処し、なお懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当と判断した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年及び罰金二五〇〇万円)

(裁判官 阿部浩巳)

別紙1 所得金額総括表

<省略>

修正貸借対照表

<省略>

別紙2 所得金額総括表

<省略>

修正貸借対照表

<省略>

別紙3 所得金額総括表

<省略>

修正貸借対照表

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

平成3年分

<省略>

平成4年分

<省略>

平成5年分

<省略>

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